Jクラブの経営状況(2010年度)#2[予算と順位の相関性]
Jクラブの経営状況(2010年度)の考察の第2回目です。
今回は予算と順位の相関性についてです。
「順位はクラブの予算規模で決まる」
そういう意見は多いです。
Jリーグから公表されたJクラブの経営状況の資料から検証してみます。
この資料には、各クラブの予算額はありませんが、営業費用があります。
営業費用は「使ったお金」で、予算は「使えるお金」です。
順位との相関性を見る分には同じと言っていいと思いますので、予算を営業費用に置き換えて見ていきます。
順位と営業費用の相関性
上のグラフは、J1の過去5年間の順位と営業費用の相関図です。
浦和は営業費用が50億を超えて突出しているため入れていません。
浦和の営業費用は2006年度から順に68.6億円(1位)→77.4億円(2位)→70.6億円(7位)→63.6億円(6位)→59.0億円(10位)。
緑色のベルトは、営業費用に見合った順位であろうと思われる範囲です。
ここより下は営業費用の割には順位が良く、上にある場合は営業費用に対して順位が悪いと見ます。
まとめると、
- 浦和の営業費用(予算)は他のクラブから突出している。
- 浦和と横浜FMを除けば、営業費用(予算)と順位はある程度の相関はある。しかし、相関性が強いとも言えず、山形のような極めて少ない予算でも残留できている。
- 営業費用(予算)が30億円未満のクラブ数は2006年度から順に11→8→5→7→9、25億円未満のクラブは5→4→2→3→6となっていて、J1リーグは2008年を頂点としてクラブの規模が大きくなっていたが、再びクラブの規模が小さくなりつつある。
- 2009年以降、浦和の落ち込みが目立つが、浦和を除くと35億円くらいより上の規模のクラブの予算は現状維持かあまり減っていない。そのためにJ1のクラブに予算規模の格差が大きくなってきている。
- 上位争いするには、30億円以上の予算規模でないと難しい。セレッソ大阪(2010年)や広島(2009年)や大分(2008年)、川崎(2006年)のような例外も年に1チームくらい出現する。
- 上位争いとは違って降格は傾向が異なり、予算が中規模のクラブでも降格する。ただし、2008年の東京ヴェルディや2009年の千葉と柏、2010年のFC東京を例外とすると、営業費用のワースト5位のクラブが降格することがほとんど。
Jリーグには予算規模の異なるクラブが混在していて、だいたい予算規模に見合った目標を持って戦っていますので、予算規模と結果(順位)に相関性が出るのは当然のことです。
しかし、長いシーズンにはクラブの規模だけでは決まらない要素があることも確かです。
人件費について
次に人件費の項目に注目します。
人件費の内訳
この資料での人件費は以下の項目の合計です。
- 監督・コーチ及び他のチームスタッフ人件費(アカデミーを含む)
- 選手人件費(報酬の他、支度金、移籍金償却費を含む)
選手人件費の報酬は以下のものがあります。
基本給は、年俸のことです。
出場給は、試合に出場することで受け取れる賃金。近年、廃止するクラブガ増加。
勝利給は、試合に勝利した場合のみ支払われる賃金。試合の重要性によって金額が変動することもあります。
特別給とは、契約の際にオプションとして設ける賃金。出場数やゴール数とか、チームの成績とかでのボーナス。
支度金とは、新人選手にシーズン前に支払われるもので、契約金のようなものです。上限は500万円と決められています。
アカデミー(育成組織)とはユース(高校生年代)やジュニアユース(中学生年代)、ジュニア(小学生年代)のチームのことです。
小学生年代のサッカースクール、クリニックも含みます。
移籍金償却費
選手の移籍金は、繰延資産として扱われ、契約期間で償却します。
(契約期間が曖昧な2009年までの国内移籍ルールでの移籍金の償却期間は、たいていの場合、3年であると思われる)
つまり、この資料の人件費には、当年度または1~2年度前に発生した移籍金の何割かが含まれています。
(移籍時のたいていの契約期間は2~3年、契約期間を定めていない場合の償却期間は3年)
国税庁のサイトから引用
(職業運動選手等の契約金等)
8-1-12 法人が職業運動選手等との専属契約をするために支出する契約金等は、令第14条第1項第6号ホ《その他自己が便益を受けるための費用》に規定する繰延資産に該当するものとする。
第1節 繰延資産の意義及び範囲等|基本通達・法人税法|国税庁(繰延資産の償却期間)
職業運動選手等の契約金等(8-1-12)は、契約期間(契約期間の定めがない場合には、3年)
第2節 繰延資産の償却期間|基本通達・法人税法|国税庁
人件費と順位の相関性
上のグラフは、J1の過去5年間の順位と人件費の相関図です。
2010年と2007年は浦和を除くと強い相関性がありそうな感じですが、それ以外の年はバラバラで相関があるとは言えません。
営業費(予算)より人件費の方が順位に直結していそうに思いますが、意外にも営業費(予算)ほどには相関していません。
それは移籍金償却費を含んでいるからなのか、監督やコーチなどのスタッフ、アカデミーのスタッフを含んでいるからなのか、チームの強さは人件費ではなくクラブとしての総合力だからなのか。
人件費を見て思ったのは、12億~18億円の幅に収まっているクラブが多いことです。
ここだけ見れば、クラブの実力は拮抗するように思いますが、人件費が同等、もしくはわずかな差であっても、クラブでもチームの結果に違いが出ています。
予算規模と同様に、チームの結果は人件費だけでは決まらないということでしょう。
あれ?人件費、高くない?
ニッカンスポーツの選手名鑑には選手の推定年俸が記載されています。
このニッカンの推定年俸はそんなにアテになるものではないと思ってはいますが、この数字と人件費を比較すると疑問に思うことがあります。
下表は、2010年度の人件費とニッカンの2010年の選手名鑑に記載されている年俸の選手合計(シーズン開始時)とその差額です。
順位 | 人件費(A) | 年俸(B) | 年俸以外(AーB) | |
---|---|---|---|---|
浦和 | 10 | 22億8200万 | 10億9120万 | 11億9100万 |
名古屋 | 1 | 21億3300万 | 8億0390万 | 13億3000万 |
鹿島 | 4 | 20億0400万 | 9億0980万 | 10億9500万 |
大宮 | 12 | 18億5000万 | 5億4680万 | 13億0400万 |
G大阪 | 2 | 17億7300万 | 9億4710万 | 8億2600万 |
川崎F | 5 | 17億4300万 | 7億1770万 | 10億2600万 |
清水 | 6 | 14億9800万 | 7億5020万 | 7億4800万 |
横浜FM | 8 | 13億7400万 | 7億5700万 | 6億1700万 |
広島 | 7 | 13億7200万 | 5億6870万 | 8億0400万 |
F東京 | 16 | 13億7000万 | 4億3350万 | 9億3700万 |
京都 | 17 | 13億0800万 | 6億4420万 | 6億6400万 |
C大阪 | 3 | 13億0100万 | 4億2080万 | 8億8100万 |
磐田 | 11 | 12億5400万 | 6億3520万 | 6億1900万 |
神戸 | 15 | 11億6700万 | 7億0600万 | 4億6100万 |
新潟 | 9 | 9億1000万 | 3億5520万 | 5億5500万 |
仙台 | 14 | 8億5800万 | 2億9920万 | 5億5900万 |
山形 | 13 | 7億8700万 | 2億9070万 | 4億9700万 |
湘南 | 18 | 6億4600万 | 2億9320万 | 3億5300万 |
ほとんどのクラブの人件費は、選手年俸合計の倍くらいあります。
移籍金償却が2、3億円というクラブもあるとは思いますが、それを差し引いても多いです。
たいていの監督は5千万円くらいのはずで割と高給ですが、コーチとかスタッフも高給なのでしょうか?
たいていはフリーランスなので安定した職業ではないので、たくさん貰っていてもいいとは思いますが、それとしても多いように感じます。
ならば、勝利給や特別給などが多いのかと推測。
とすると、セレッソが多いのが分かるけれど、あまり勝てなかったFC東京や大宮も多いのが謎になってしまいます。
とはいえ、FC東京と大宮を除いて考えれば、リーグ戦で上位だったり、カップ戦で勝ち上がっていたり、ACLに出場しているクラブが、年俸以外の金額の多そうです。
日本代表の試合の勝利給がわずかに10万円で代表選手の待遇で協会と選手会が揉めていますが、クラブは選手へのニンジンを結構出していそうです。
Jリーグの選手の年俸は安いというイメージがありますが、案外、それなりの報酬は得ているのではないでしょうか?
もちろん、良い成績を出してこその話しですが。
さいごに
浦和は、2008年以降、予算額の面でも人件費の面でも結果との不釣り合い度がハンパありません。
フロントの責任が大きいと考えるのが妥当だと思いますが、浦和の事情はよく知りませんので原因については何とも言えません。
ビッグクラブらしい成績を出してJリーグを牽引していってもらいたいところです。